JAPAN CUP 1997 (Vol.1)

byショーケン

  この文章は2年前のJAPAN CUPの日記を再構成したものです。
このレースでは、関西ヨットクラブ所属「MAKI」に乗せて頂きました。
小田オーナー、西垣スキッパーはじめMAKIの皆様には大変お世話になりました。この場を借りてお礼を申し上げます。どうもありがとうございました。
 文書的にはかなり未熟な部分が多いと思いますが、ご容赦願います。


ある夏の暑い日。盆休みだというのにどこにも行かず、家で娘とへらへら笑ってたとき、電話が鳴った。MAKIの下村君からだった。
 

「どうも!お久しぶりです!!」 
「おお、ほんまに久しぶりやな。元気にしてるか?」
「ええ、ぼちぼち。それより、シュウさん、聞きましたよ。ジャストってハルに穴開けて売ったんでしょう?」 
「なんちゅうこと言うねん!!穴はちゃんと塞いだわい!」 
「そうですか。今はどこかに乗ってるんですか?」 
「いや。お陰で暇な盆休みやで」 
「ジャパンカップ、MAKIに乗りません?」 
「えっっ?行ってエエの?」 
「・・ほんまは来てほしくないんですけど、たまには声かけな悪いし」 
「じゃかあしい!ほな、行くわ」


 というわけで話が決まった。
ジャパンカップは今年の秋、新西宮ヨットハーバーをベースに開催されることが決まっている。
新西宮ハーバーは、俺の伊丹の実家から車で25分。ロケーション的には金のかからない遠征なのである。
「MAKI」は、萩原が神戸に住んでいた頃にお世話になっていた艇で、艇種はIMX38。38フィートのクルーザー/レーサーだ。クルーは元「WILL」「Summer Girl」と言った有名艇の人が多く、チームのレベルも非常に高い。その中で下手っぴいは俺くらいだったので、乗せて頂けるなんて光栄だ。 

 レースが近くなってくるとEメールや電話で色々な話題が伝えられた(ヒロシ君、感謝!)。
レーティングのマスト重量を実測値(今までは設計値がインプットされていた。実際は設計値より軽いらしい)に変更した所、レーティングが下がったそうだ。
今回のジャパンカップは初めて関西での開催、しかもNORCではなくKYC(関西ヨットクラブ)主催である。それだけに地元西宮では半年前からかなりの盛り上がりを見せている。
「MAKI」の小田オーナーも今回のジャパンカップに対しては相当気合いが入っていて、3DLのメインとスピンを一枚づつ新製、ヘルムスマンにダン・ペダーセンを乗せるとのことだ。
このダンと言う人はXヨットのデザイナーで、3年ほど前、当時IMX38だった「アオバ」ですばらしいセイリングを披露した。IMX38は4艇あるのだが、とにかく、ダンの操る「アオバ」だけ圧倒的に速いのだ。他の3艇と同じ艇とは思えなかった。

「あいつは金取らへん。会社の出張扱いでくるから安いでえ。ケン・リードの10分の1ですむで。」
MAKIスキッパーの西垣氏は笑いながら言った。

 ダンは波のある海面での走らせ方が抜群にうまいらしい。IMX38は波のある海面では走らないボートなのだ。艇が重いので、加速が悪い。それにセイル面積が大きいのに対してスタビリティが悪いので、波にたたかれるととても不安定になり、艇速がぐんと落ちるわけだ。今まで勝ったレースはいずれも波の立たない北風だったという。
関西のIMXのクルーの間ではダンは有名で、あんな速く乗るのはなにか秘密があるのだろうか?という疑問が多くある。今回、一緒に乗ることで、謎が解けるかもしれない。
それにしてもそんなすごい人と乗れるなんて、本当に良いのだろうか?

 さて、レース一週間前、新西宮ヨットハーバーに行った。既にレース艇は続々と入港しているようだ。
「MAKI」では何か問題が発生しているらしい。みんな暗い表情だ。その問題とは二つあって、一つはレーティング証書のこと。マスト重量を変更して、新しいレーティング証書が発行されたのだが、なぜかメインセイルの重量やスピンの最大面積までもが変更されていた。これはNORCのミスなのだが、このままでは使用できるメインとスピンはそれぞれ1枚だけになってしまう。メインはNEWセイルが使えるので問題ないのだが、スピンは0.5OZしか使えない。これは困った。  レーティング証書の提出は既に締め切られているので、今更変更は出来ない。仕方がないので、他のスピンはリカットして面積を減らして使用することになった。コインランドリーの乾燥機にスピンを入れて縮ませようとか、色々意見が出たが、それが一番早くて確実だとの判断だ。
もう一つの問題はクルーウェイトの問題。直前になって、ダンがメイントリマーを連れてくることになり、ウェイトを見直す必要が生じたのだ。単純に考えて、一人増えるのだから、一人降りなければいけない。しかし計算してみると、彼ら2人を除く全員で合計10kg減らせば、もう一人乗れる事がわかった。ということは一人あたり、申告より1.5kg程度減らす必要があるわけだ。
みんな元気がないのは、昨日から何も飲まず食わずだからだった。ウェイト計測は明日も行われるが、今日中に決めて、夜は飯を食べたいところだ。

 その日はハーバーの中でも25ノット吹いているぐらいの強風なので、6人での出艇は諦めて、ダイエットに専念することになった。夕方17時までに決めてしまわないと、今夜も晩飯抜きだ。
体重計測はレース本部で行うのだが、となりに予備の体重計が置いてあり、そこで測ってみて、決心がついたら、本番で測るというシステム。俺も予備体重計に乗ってみた。目標60.5に対してこの時、61.4KGだった。「あと1KGか・・・」

 まず、登場したのが「利尿剤」。こんなものをどこから持って来たのだろうか?
聞いてみると 「近所のおばちゃんにもろたんです。萩原さん、これも飲んで下さい。よう、効きますよ」 渡されたのは、「ササスルー」、便秘薬らしい。 「おしっこに便秘薬。なんかプレイみたいやのー。マニアには応えられん。」すっかり喜んでしまう人もいた。
 一番若いヒロシ君が 「献血行きましょう!400ミリづつ3ヶ所まわったら行けますよ」 
それじゃ、「あしたのジョー」だ。そうしている間に利尿剤が効いてきた。みな、トイレに立ち始める。
結局、カッパを着てハーバーを走ることにした。この日は秋晴れの良い天気。風が強いとはいえ、ハーバー内でカッパを着ている人など皆無だ。
 その中をカッパを着た6人が走り始めた。
とにかく、走る、走る、飛ぶ、踊る、鬼ごっこもやったし、「アブラハムの息子」もやった。お揃いのカッパを着た6人がそんなことやっている姿は、奇怪な新興宗教の儀式のように見えたかもしれない。

 1時間半ぐらいで、汗ダラダラ。体重を測ろうとそのままの格好で本部に入っていくと、小田オーナーが中におられて「な、なんや?おまえら?こんな風で船出したんか?」と驚いておられたが、この格好で走っていたと聞いて大笑い。

 さて、体重を測ってみると60.3kgだ。1kgは減っている。しかし、まだ時間があるので、とことんやることにした。夕方までカッパを着たまま歩いたり、ストレッチをやったりした。  

 17時直前、「MAKI」の6人は体重計測を受けた。
スキッパーの西垣氏は体重計の上で不敵な笑いを浮かべた。「・・どや?」
彼は4kg近い減量に成功した。俺が乗ってみると59.0kgだ。やった!
となりで「ファウンデーション」のクルーが頭を抱えている。彼らは5kgの減量を強いられているらしい。

とにかく、クルー全員で10kgの減量は成功した。あとはレースを待つばかりである。
それにしても体重計に乗った瞬間は達成感があったが、後でむなしさが残ったぞ。 

つづく

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