エンジニア達の会話

by チャーリー岸田&ショーケン

ヨット用の交換部品の入手についての話をしています。
(内容の信憑性については責任もちません)

[萩原]

 そのステンレスの部品ですが、大きなホームセンターなら置いているかもしれないので、今度探してみます。 無い場合、どこかのネジ屋に注文して取り寄せます。

[岸田]

 こう言う話はショーケンの方が専門なのでしょうが、ステンレスには色々種類があるようですよ。
 以前、ホームセンターで買って来たステンレス製のネジを使ったことがあるのですが、一発で真っ赤に錆びてしまいました。

 「これって鉄じゃねえの?」
 ・・・と、思ったのですが、業者の話によると、
「船具で使っているステンレスは一番錆び難い種類のもので、一般にホームセンターではそのようなタイプのステンレス製部品は売っていない。」
 ・・・との話でした。

[萩原]

 そうなのです。色々あるのですよ。
一般工業用製品に使われているのはSUS304と呼ばれるオーステナイト系のステンレス鋼で、鉄にクロムとニッケルを添加して耐腐食性を増しています。
これにモリブデンを添加したSUS316の方が耐腐食性は良好ですが、この材料のボルトは使ったことがありません。
 まあ、チタンのボルトもあるくらいですから、探せばあると思いますが、SUS304でもそれほど悪いとは思えません。
恐らく、岸田さんが使われたボルトは高炭素のSUS303などだった可能性があります。こちらは、耐腐食性は304より悪いです。

 ステンレス鋼は、材料そのものが防錆性を持っているのではなく、表面に作られる膜のような物が酸素との結合を防ぎ、錆を防止します。ですから、傷などでこの膜が剥がされると、錆が発生します。

 また、ステンレスは一般の鉄鋼材料に比べて、強度が落ちますので、使う箇所の機械的強度を考慮する必要があります。元々ステンレスボルトを使っているところなら問題ないでしょうが、高張力ボルト(引っ張り力が強い)を使っている箇所をステンレスに置き換えると、強度が不足します。

 ステンレスだけの特性ではないのですが、「応力腐食」という現象がありまして、力がかかった状態の金属材料は、腐食を受けやすいのです。フォアステーが切れたりするのは、応力腐食による亀裂進展による破壊が起こっているのです。

[岸田]

 ええ〜っ? 「表面に作られる膜のような物が・・」とは知らなかった。
 つまりメッキみたいなものではありませんか。
 おそらくステンレスの膜はメッキの膜より丈夫なのだろうけど、それでも剥げる可能性がある訳ですね。
 それから「ステンレスは一般の鉄鋼材料に比べて強度が落ちる」というのも知らなかった。
 ステンレスはド鉄なんかより頑丈なのかと思っていたぜ。

[萩原]

 メッキと決定的に違うのは、金属が外気の影響で膜のようなものを生成することです。
ですから、傷が入っても生成する可能性がありますが、この膜部分の安定性が問題になると思います。モリブデンを添加したりするのは、この膜部分を安定させるためなのです。
傷が入れば、そこに応力が集中し、応力腐食割れを起こしたりするかもしれません。
また、高温や塩素には、弱かったと思います。

 強度についてですが、ステンレスの種類によりますけど、一般的に使われるもの(オーステナイト系)は強度が低いです。熱処理などにより、強度を増したマルテンサイト系と呼ばれるステンレス鋼もあります。これは、例えば、船舶のシャフトなどに使われますが、硬くてもろい、という特性を持っています。

[岸田]

 それでは、ステンレスを溶接した場合にはどうなるのだ?
 溶接部分には膜が溶けて地が剥き出しになる部分もあるだろうし、その場合、溶接後に膜を作り直す処理が必要になるのか?

[萩原]

 なかなか鋭いですねー。

詳しくはわかりませんが、熱処理で何とかします。
これはステンレスに限ったことではないのですが、溶接をすると熱による歪が発生するため、これを除去するために熱処理を行うケースがあります。熱処理というのは、焼きなましや焼きならしと呼ばれるものです。
ステンレス鋼の「膜」はコーティング層ではなく、ステンレス鋼の材料と外気が反応して生成されるものなので、温度によって組成が決まってきます。つまり、熱処理でコントロールするわけです。

 このあたりの話は非常に難しい話で、学生の頃に習った時はチンプンカンプンでした。
(今でもチンプンカンブンですけど)
じゃあ、全部の溶接構造体に対して熱処理を行うのか?というとそうではなく、精度が必要な物だとか、用途によって決めることになります。当然、海の上で使うような物は、それ相当の注意が必要だと思われます。

[岸田]

 ふーむ。

 それではメッキのように剥げる心配は少ない訳ですね。
 しかし、長い時間を掛けて磨耗して、膜が剥げて行くことはあるのですか?
 ステンレスと言えども錆に対して完璧ではないのですね。

 ところで、最近の拳銃には銀色にピカピカ光るステンレス製のものが多いのだけど、鉄よりステンレスの方が弱いのなら、弾丸を撃ったら割れてしまう可能性があるではないか?

 もちろん、製品化されているのだから必要な強度は備えているのだろうけど、単なる鉄の銃の方がより安全確実だと言う訳だな。

[萩原]

 銃身までステンレスじゃないでしょう?
恐らく、弾丸が通るところは、ステンレスではないと思います。周りのカバー的なパーツのみをステンレスにしているか、通常の鉄を無電解ニッケルメッキやクロムメッキなどでピカピカにしているのではないでしょうか?

 銃については、全く知識がありませんが、それ相当の材料が決まっていると思います。
銃身は、弾丸が高速・高温で通過するため、どう考えてもステンレスが使えるとは思えません。防錆性材料に関しては、金属同士の接触などには弱かったと思うので、銃のような用途にはむいていないでしょう。

 映画で出てくる殺し屋は、マメに銃の手入れをやっていますが、やはり、そういうことをやらないとダメになってしまうと思います。

[岸田]

  なるほど。そうなのですか。
 ところで銃は、最近の大量生産物よりも西部劇の時代の手作り物の方が精度が高いのだそうです。
 機械の部品でも、職人の腕が未だに生産機械を上回ってケースがありますよね。
 このような職人の技って凄いっすね。

 近年、金属だけでなく石油を原料とした素材にも大きな進化があるようですね。
 先日、NHKの科学番組で、下記のような実験を行っていました。

  1. 地面(アスファルトの道路)に、厚さ10mmの特殊なゴムのマットを敷く。
  2. そのゴムマットの上に、ビルの4階から鶏の卵を落とす。
  3. 卵は割れない。
 凄いですねえ。このゴムは、ビルの4階から落とした卵の衝撃を吸収してしまうのですね。
 そこで岸田は思ったのですが、この素材が実用化されたら、たとえば下記のような使用法が可能になる訳ですね。  
「携帯電話やモバイルパソコンなどの筐体外側に、このゴムを貼り付ける。するとこの電子機器は、少々乱暴に扱っても壊れない。」
 厚さ10mmのゴムでビルの4階からの衝撃を受け止められるのですから、携帯電話の筐体を1〜2mmの厚さのゴムで包めば、1mくらいの高さから落としても何とも無いのではないかと思われます。
 そうなったら色々便利ですね。

[萩原]

 確かにそうですが、モバイル機や携帯電話の場合、放熱の問題が出てきます。
そのような素材が熱伝導性が良いのかはわかりません。

 メーカーにしてみれば、携帯電話やパソコンは、どんどん消費して、新しい物を買ってもらわないといけないので、そういう方面の技術が開発されるのは、ずっと先のことになると思います。恐らく、トレンドにならないでしょう。

 きっと自動車や航空機と言った、安全性が必要な分野での応用(例えば、バンパーを高衝撃吸収性素材にする、など)がメインになるでしょう。携帯電話などは、まだまだ機能やコンテンツの充実という方面に発展していき、サイクルも短くなると思います。

[岸田]

 今は何でもこの調子になって来ましたね。

 「道具は高価でも質の良いものを大切に長く使う。」
 ・・・と言う美徳が通用しない世の中になって来て居ますね。
 しかし、最近では消耗品であるパソコンが、格好良く見せて付加価値を高めるためにチタンの筐体に入っていたりします。
 「特殊ゴム筐体で落としても割れない! 象が踏んでも壊れないパソコン登場!」
 なんてことになったら嬉しいな。

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