熱帯の憂鬱(番外編)
by チャーリー岸田

先日の名古屋出張の折り、商社マンのYと栄の街に飲みに行った。
商社マンYは最近フィリピンパブにはまっており、今日もミンダナオ島出身のJさんを口説いていた。

「今度休みの日に、ヒルトンホテルのプールに行こうぜ。」
「でもスイミング・ウェア持ってない。」
「そんなの買ってやるよ。」(スーパーで\1,500くらいの買ってやれば十分だろう)
「毎日1時と5時にアパートでチェックあるよ。外に出られるのはその間だけね。」

このチェックとは何か?
フィリピーナを雇っている店では、彼女たちが逃げないように、毎日何回かの点呼を行っているのだ。
どうして逃げられないように見張らなければならないのか? 昔の遊郭のように、彼女たちは借金を背負っているのか?
そうではない。
その仕組みを説明しよう。

日本のフィリピンパブがフィリピーナを雇う場合、フィリピンのプロモーターと契約する。
タレント・ビザを持っていないフィリピーナを雇うのはリスクが大きいし、タレント・ビザは現地のプロモーター経由でなければ、なかなか取得できない。
このとき店はプロモーターに、女性1人あたり毎月30〜40万円もの保証金を払っているのだ。この「保証金」がプロモーターの収入になる。
日本の店では、そんな大金を払って経営を続けて行くためには、当然フィリピーナに払う給料を低く抑えることになる。
店のフィリピーナが貰う給料は、月に平均6〜7万円。
当然フィリピーナの生活は苦しい。
店から逃げて別の店で働けば、当然収入は増える。しかしこれは契約違反。
もし、フィリピーナが店から逃げたら、店とプロモーターの関係はどうなるのか?
普通に考えれば、店が人材を派遣しているプロモーターに苦情を言える立場であるように考えられる。
しかし、実は逆なのだ。
店はプロモーターの大事なタレントを預かっていることになるので、そのタレントが行方不明になれば、それは店の責任となる。
半年契約で1ケ月目にフィリピーナが逃げた場合、残りの5ケ月の間も、店はプロモーターに保証金を払い続けなければならない。
そうなったら大損害だ。
そこで店側は、契約を楯にフィリピーナの住むアパートを見張ることになる。
一番儲かるのはフィリピン側ののプロモーター。
当然、こんなボロ儲けの商売を考えるのはフィリピン人ではない。
フィリピンのプロモーターの大部分は華僑の経営である。

ところで肝心のフィリピーナは、月に6〜7万円の給料で生活して行けるのか?
渋い店では、その給料の中から家賃を差し引くところもあるし、食費や衣装は全て自前だ。
生活できるわけがない。
それではどうするのか?

「男をだます。」
これが彼女たちの生きる道だ。
複数の客に対して、
「あなたが本気で好き。商売抜きで好き。あなただけを愛しているわ。」
〜ってな事を言って金を使わせるのだ。
フィリピンパブでは「指名」や「同伴出勤」などの歩合による収入が大きい。これらの歩合給が入らなければ生活して行けない。
毎月6〜7万円の給料でさえ、毎月払わずに契約期間終了時にまとめて払う店も多いのだ。毎月払ってしまっては逃げられる可能性が高いから。
しかし要領の良い娘はこれで毎月50万円以上の収入を得ている場合もある。
同じ店にそんな高給取りが居れば、他の娘だって同じように成ろうと考えるだろう?

商社マンYは下記のように考えているかも知れない。

「どうせこの子たちは貧乏で遊びに行く金なんて無いのだろう。だから休みの日に遊びに連れて行ってやって、メシでも食わせてやればそれで十分だろう。」
ところが十分ではない。
彼女たちには生活が掛かっているのだ。遊びどころではないのだ。客とプライベートにコンタクトが取れたならば、それを収入に結び付けられるかどうかが勝負なのだ。
フィリピーナのプライベートな連れ出しは、同伴出勤が前提となる。
同伴出勤すれば、客は店に1万円程度の代金を払う必要がある。
もちろん店も、比較的空いている早い時間帯の来店は大歓迎だから、同伴出勤をする場合に限って日中のアパートでの点呼を免除するなどの措置を設けている場合もある。
全ては化かし合いなのだ。

しかしフィリピーナの場合、大きな問題がある。
水商売は男をだますのが仕事なのに、「だますよりもだまされる方が得意。」と言う娘が少なからず居る。
困ったものだ。
さて、商社マンYの企画はどうなることだろうか?

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