唐津くんち(1)

by  チャーリー岸田   

-再会-




 世の中には2種類の人間がいる。

「九州に濱ちゃんって言う面白いおじさんが居るんだけど、今度遊びに行かないか?」
  そんな突拍子もない話を聞いて、「よし、わかった!」の一言で航空券を買いに行ってしまうタイプの人間と、それをしない人間。
  もちろん前者は少数派だが、少なからず実在する。そしてそう言うタイプの人間は一般社会から浮いてしまい、唐津くんちに集合することになる。
 今回集まった連中は、基本的にそんな連中ばかり。お互いに初対面の関係が多いが、そんなことは全く問題にならない。

  出発前、今回声を掛けたメンバーの一人、K氏から分厚い封筒が届いた。

  「俺は行けないけど、楽しんで来てくれや。」
と、福岡中州の風俗情報の載った新聞のコピー。
どうやらこの人は今回のツアーのコンセプトを誤解しているようだが、読むとなかなか笑える記事なので持って行くことにした。
しかし、この人は東京在住なのに、どうして福岡の風俗情報などを持っているのだろう?

  唐津の濱ちゃんの家で「わはは!」などと言いながら、皆でこの新聞コピーを見ていたところ、今回参加したメンバーの一人、保っちゃんがふと一つの記事に目を止めた。
 

 保っちゃんは大阪在住のヨット乗り。
昨年のキングスカップで濱ちゃんと知り合い、それ以来、濱ちゃん及びJustチームの連中と会うのは初めてだ。
彼は昨日の朝大阪の家を出て、広島でゴルフをして、そのままその足で九州の唐津まで、合計700km運転して来たツワモノ。
窓ガラスにヒビが入りツルツルのタイヤを履いたオンボロBMWを、途中で修理しながら遥々唐津までやって来た。

彼の見ていた記事には、『火山灰でヨットを自作』の見出し。
読んでみると、唐津の鉄鋼所の社長が火山灰を混ぜたセメントでヨットを作っているらしい。

保っちゃん「おっ! 俺この人知ってるぞ。」
 話を聞いてみると、このヨットを自作しているのは、保っちゃんが子供の頃、実家が経営する工場で働いていた職人さんらしい。そして30年前に郷里の唐津に帰って自分で鉄鋼所を始めたそうだ。
濱ちゃん「この人なら知っちょるバイ。そげんことならこれから会いに行くバイ。」
 そこに居た全員が、ぞろぞろとこの鉄鋼所に行くことになった。そして30年振りのご対面。
保っちゃん「どうもどうも、タモツです!」

社長「おお! 全然変わっちょらんバイ! 相変らず悪ガキしちょるね。」


 世の中どこで何が起こるか解らない。風俗記事を送ったKさんも、まさかこれが30年振りのご対面のきっかけになるとは夢にも思っていなかっただろう。

つづく

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