ビジネスホテル

by  チャーリー岸田

 この町のビジネスホテルは従業員2名。70歳前後母親と50歳前後の娘で全てを切り盛りしている。早い話が民宿だ。
 二人とも朝は早いが夜も早い。仕事が終わってホテルに帰ると、従業員は二人とも寝ていて、フロントにキーが置いてある。無用心極まりないが、家に鍵を掛けずに外出してしまうのが一般的な山奥の町では特に問題はない。
 岸田もこの町でのアパートが決まるまでは、このホテルに宿泊していた。
 この従業員の親子は、かなりのボケかましコンビだが、部屋は清潔に掃除されているので岸田は気に入っていた。

 今日は本社から出張者が来たので、出張者をこのホテルまで案内した。するとそこには・・・
 ロビーにはビールの空き缶が転がり、娘の方(推定50歳)が飲んだくれていた。

「あ〜ら岸田さま、お久しゅうございます。」
「どうしたんですか? 今日は遅いじゃないですか。」
「女だって飲みたいときがあるんですよぉ。」
「大丈夫ですか? 飲みすぎてませんか?」
「今日は母が出かけておりますので、問題ありません。」
 どう言う理屈なのか解らないが、酔っ払いを相手にしても仕方がない。
「岸田さま、腰をお揉みします。横になって下さい。」
「い・いえ、結構です。全然凝ってません。」
「あら、結構凝ってますよ。さあ横になって。」
 岸田はロビーのソファに横になった。出張者は気味悪がって、部屋に帰ってしまった。
 深夜のホテルのロビーでロレツの回らない50歳のおばちゃんと二人だけ。かなりシュールな雰囲気だ。
「岸田さま。私離婚したんですの。」
「は、はあ。」
 どうりで普通の状態じゃないわけだ。
「今宵は飲みましょう。」
 まいった、俺は早くアパートに帰って寝たい。困った困った。

 そこに課長が登場。課長もこの町に出張に来ていたのだが、ユーザの管理職と飲みに行っていて、我々とは別行動だったのだ。

岸田「うちの課長は凝り症なんですよ。身体中揉んであげて下さい。」
課長「な・なんだこれは?」
岸田「それじゃあ、私はこれで。」
課長「よせ。行くな。俺をここに残して行くな。」
岸田「わかりました。」
 おばちゃんは課長の腰を揉み続けた。
課長「ああ疲れた。部屋に帰って寝るっ!」
   「ああら、まだ良いじゃないですか。もっと飲みましょうよぉ。」
課長「もう眠い。部屋に帰る。」
 課長はとっとと部屋に逃げてしまった。残された俺は災難だ。このおばちゃんの相手をしなければならない。
岸田「うちの課長は腰痛持ちなんですよ。部屋に行って揉んであげて下さい。
   「あら、それは大変。部屋に行って按摩してあげなくちゃ。」
 彼女はマスターキーを持って課長の部屋に向かった。よし! 今のうちだ。この空きに逃げるんだ。

 岸田が立ち上がりかけた頃。課長の部屋から課長の悲鳴。

課長「うわあああ! 岸田、帰るんじゃねえ。二人だけにしないでくれえ。」
岸田「それでは素敵な夜を!」
課長「ちょっと待て〜〜〜。岸田帰るな〜ぁ。うわあ! 駄目だ、それ以上近づくな!」
岸田「それで素敵な夜をっ!」


 岸田は心を鬼にしてホテルを去った。ほんの数分前の出来事です。今ごろ課長は・・・・・

 

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