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フィリピンな人々 (サプライズド フィリピナス番外編)
by チャーリー岸田
 
その1 - メイドさん
メイドさん

 この写真はマリアとリンダの実家に住込で働いているメイドさん。今年ハイスクールを卒業したばかりの17歳である(フィリピンの学校制度は、小学校6年間とハイスクール4年間。この国のハイスクールは日本の中学と高校を併せたようなもので、12歳で入学し、16歳で卒業)。

 この家ではメイドを雇っているのだ。何と贅沢な! 大家族で、家には暇を持て余している連中が大勢居るのに家政婦を雇うなんて!

 たしかにこの家には日本で働いている家族からの仕送りがあるので、比較的余裕のある一族ではある。しかしお金持ちな訳ではない。貯金も無いし収入はすぐに使い果たしてしまうので、もし家族の誰かが病気や怪我でもすれば、たちまち家計は行き詰まってしまう。決して生活が楽な訳ではない。それなのに使用人を雇うなんて!

 しかしこれは、この国では贅沢なことでも何でもないようだ。そんな厳しい経済状態の中でもメイドを雇うのは一種の人助けなのだ。貧乏な家でも、もっと貧乏な家の娘さんをメイドに雇って家に住まわせることで、貧しい家の家計を助けているのだ。これもフィリピン式の『ハテハテ』である。

 このメイドさんは、ビサヤ諸島の中にある小さな島の出身。彼女の姉が、隣町に住むラニー(リンダの姉)の家でメイドをしているので、そのコネクションで今年からこの家で働き始めたのだ。まだ幼いので、家族と別れたことが淋しくて毎晩ベッドで泣いているそうだ。


 ラニーの家で働く彼女の姉には特技がある。歯でビールの栓を開けてしまうのだ。この国には何故か全抜きが無く、人々は各々色々な方法で瓶の蓋を開けるのだが、歯を使うケースは珍しい。リンダの同窓生のほぼ全員が入歯を使っていたように、フィリピンの人々は歯が弱いので歯を栓抜きに使う人など見たことがない。そこで我々は、頑丈な歯でビールの栓を抜く女を『ターミネーター』と名付けた。歯だけではなく、その体型も頑丈そうなのだ。

 あるとき、我々はまたビールを飲もうとして栓抜きが無くて困っていた。通常我々は、旅行には栓抜きの付いた十得ナイフを持ち歩いているのだが、今回の旅行にはマリアとリンダの荷物が多過ぎて我々の荷物が機内持込となるため、刃物を持って来ることができなかったのだ。

 すると、ターミネーターの妹であるこの家のメイドがやって来て、歯でビール瓶を開けてくれた。なんとこのメイドさんも歯が丈夫なのだ。話を聞くと、彼女の生まれた島の人々は皆歯が頑丈で、それがその島の自慢らしい。原因は不明だが、おそらく食べ物の種類などが影響しているのだろう。そこで我々はこの家のメイドさんを『ターミネーター2』と名付けた。


 彼女と我々とのコミュニケーションは英語である。フィリピンには100以上の言語があり、同じ国でもこのメイドさんの生まれたビサヤ諸島とこのルソン島では言語が異なるのだ。そこでフィリピン政府はタガログ語をベースとした標準語を制定し、その普及に努めているのだが、現実にはフィリピン標準語よりも英語の方がこの国の標準語として広まってしまった。同じアジア人同士である日本人とフィリピン人が英語で会話をしなければならない。その上同じフィリピン人同士でも出身地が違えば英語でのコミュニケーションとなる。悲しい話だがこれが現実である。



つづく


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